アンボロワーズ&ヴィクトール

水墨と巨大な動物のかたちを通して、人間と生きものの境界を問い直す、フランス発のアーティストデュオ。

生きものをめぐる、新しい星座

Ambroise&Victor(アンブロワーズ&ヴィクトール)は、現代の素描表現を軸に活動するフランス人アーティストデュオです。動物・植物・鉱物を丹念に描き込んだ独自の博物誌的な世界観を通じて、文化を横断しながら「生きているものをどう捉えるか」という問いを見つめ直しています。

二人が出会ったのは2015年。パリ郊外サン=ウーアン=シュル=セーヌのアートスペース「Mains d'Œuvres」でのカルトブランシュ(自由企画)がきっかけでした。このとき制作された巨大な水墨の象の絵が、二人の共同制作の出発点となります。以来、その表現は紙の上にとどまらず、彫刻、タペストリー、インスタレーション、モビールへと自在に広がり続けています。

作品を前にした鑑賞者は、まずその圧倒的なスケールと、種を超えて訴えかけてくる普遍性に息をのみます。しかしよく見つめるうちに、見覚えがあるはずの動物たちが、どこか非現実的で、親密でありながら遠い存在として立ち上がってくる——そんな体験へと誘われていきます。

「見慣れているはずの牛や羊や豚。
その姿の奥に、人が勝手に割り当ててきた役割とは違う
“何か”を見せたい。」

制作の思想

二人の作風は、自然を数値やデータに還元する科学的なまなざしとは対照的です。丁寧な観察と資料調査を重ねながら、一枚の呼吸、一つの石ころにさえ、それ自体の宇宙が宿っていると捉える視点で制作に向き合っています。植物・内臓・極小の生命体のあいだに思いがけない通路を描き出し、生きものどうしが混じり合っていく様を、見る人がいくつも発見できるよう幾重にも描き込みます。

その手法を支えるのは、あえて急がない姿勢です。大量生産・高速消費が前提となった現代の制作環境とは逆方向を向き、驚きや観照にじっくり時間をかけること、そして知識と想像力のあいだを行き来する自由さを大切にしています。

技法 — 水墨の諧調

中国伝来の水墨(encre de Chine)を用いた滲みの技法(lavis)で制作。墨を水で薄める度合いによって、漆黒から純白まで無数の階調を生み出し、作品に奥行きと繊細さを与えています。牛一頭の絵に600時間を費やすなど、極めて時間をかけた手仕事が特徴です。

視点 — アニミズム的な自然観

あらゆる要素に魂が宿るとする発想を出発点に、自然を機能や役割から切り離して見つめ直します。驚異への感受性(émerveillement)を創作の原動力とし、人間もまた体内の細菌をはじめ無数の生命との関係の中に存在する、小さな生態系のひとつであることを作品の核に据えています。

二人のプロフィール

Victor(ヴィクトール)

1990年10月10日 グルノーブル生まれ

グルノーブル国立建築大学(École Nationale Supérieure d'Architecture de Grenoble)にて建築の国家資格を取得(2014年)。空間や構造への視点を、動物のかたちや物語の構築に活かしています。

mbroise(アンブロワーズ)

1988年11月13日 グルノーブル生まれ

パリのストラート・カレッジ(Strate College Paris)にて、インタラクティブなシステム・オブジェクトのデザインを学び修士号を取得(2012年)。デザインの発想を素描の世界に持ち込んでいます。

「Intérieurs(内なる生)」

パ=ド=カレー県ベテューヌ(Béthune)にある芸術センター「Labanque」(旧フランス銀行の建物)にて開催された個展。19世紀オスマン様式の装飾が残る部屋を巡りながら、音楽家トマ・ヴァキエによるサウンドとともに、生命の循環をたどる体験型の構成になっています。


第一室|起源の時間

深い青に塗られた部屋。壁には水墨の牛、床には絡み合う二匹の蛇を描いたタペストリー、暖炉の上には陶器の卵が置かれ、動物たちが空間を支配する世界へと足を踏み入れます。


第二室|内省への旅

床から天井まで広がる巨大な熊の素描が出迎えます。同じ筆致を共有するまでに技法を磨き上げた二人ならではの、継ぎ目のない一枚の絵として立ち上がります。


第三室|黄金の時代

初めて紙を離れ、立体作品へと挑んだ豚の彫刻を展示。平面から量感へ——新しいシリーズの始まりを告げる部屋です。


第四室|再生の環

深い赤に染まる最終室。翼を開閉するコウモリのモビールが象徴的な存在です。翼を閉じれば花咲く植物が、開けばキノコや腐肉食の生きものが死を生へと変えていく分解の情景が現れます。隣には、誤って感染源とされたセンザンコウを描いた作品が並び、災厄の後に生まれる生を静かに示唆します。