芸術とお金

芸術とお金

アメリカの小説家が登場人物の女性に「自転車に乗って笑っているよりも、ロールスロイスの中で泣いているほうがいい」と言わせている。私などが、いまだに覚えているのだから、インパクトのある台詞なのだろう。20世紀のアメリカンドリームやアメリカの物質文明の雰囲気を良くて伝えていると思う。

私などは自転車で十分で、心安らかなほうがどんなにいいかと思う。でも人の価値観は多様なので、あえて反論するつもりもない。何百万円も、またはその100倍ものお金を出して、絵画、宝石、車など、を買う人がいる。18世紀以来、富の平等分配とか、私有財産の否定とかがさかんにとなえられたり、共産主義という大掛かりな実験が行われたりした。

それでも、富を平等に分配する仕組みはないし、また、それが本当に必要かどうかもわからない。お金は無いところには全く無いが、有るところにはかなりある。貨幣経済なので、そのお金が社会の中を流れて、社会の成り立ちを支えている。お金を沢山持っている人は、増やす為に投資をしたり、贅沢品を買ったりする。私達絵画商は、お金に余裕のある人たちが日常生活の必需品を買った余りのお金を少し分けて貰い、画家の生活費に当てたり、私たちの生活費に当てる。しかし、画家も画商も大して儲からなくて、随分と成功した人でも豪邸を立てて、別荘1件買った位だろう。

画家も似たような物で、皆細々と生計を立てている。資産家や、儲かる事業で成功した人たちが、余ったお金を少しでも絵画に使って、画家の生計を助けて欲しいと思う。そして、商人も助けて欲しい。絵画に対するお客さまの要求は時に驚くほど欲張りだ。良い作品で、安くて、しかも値上がりを期待し、値上がりしたら転売まで考えている。つまり、絵画はインテリア性と金融性をあわせ持つ商品と考えられているからだ。例えば200万円の家具を買って、20年後に(つまり、20年も散々使った後で)500万円で売りたいと考えたら、その人は頭がおかしいと思われるだろう。でも、絵画の場合は皆さん平気でそんな事を考える。それは、たまにそういう事もあるからだろう。私はお客様に、「インテリアとして、または贅沢品として心行くまで楽しんで下さい。その上で、宝くじの券が1枚付いていると思えばいいですよ。」と言いたい。当たる時もある。私は自分が契約した画家にはほれ込んでいるから、どの画家も今よりもっと有名になり、いつの日にか、今の10倍の金額の画家にしたいと懸命にやっている。私はお客様に「どうぞ、この絵画と一緒に私の夢を買ってください。私と一緒にこの夢にかけましょう。」と言いたい。

多少売り方が強引だったり、作家への評価の説明が誇張されていたりする事があったとしても、勿論そうでないに越して事はないが、そういった事もある意味では顧客サービスかもしれないと思う。勿論、うそはいけない。例えば、贋作とか偽者のサインとかは絶対駄目だ。以前私から、良く絵画を買ってくれたお客さんが「この絵画本当に良いの?有名になるのかな…等々」あまり、ストレートな答えも見つからないような質問を散々して、私の余り答えにもならないような説明を聞いて。「じゃ貰おうか。また、あんたに騙された」といって満足そうな笑顔でお金を払ってくれたことを思い出す。

文化はあまったお金の捨て場所だと思う。有るパーティーで、金融関係でしこたま儲けた人と話をした。彼はフランスの画家の水彩画を買ったが、今だともう少し高く売れるかと聞かれた。私は、「今なら、買った値段より高く売れるが、貴方のように金融でも一杯儲けている人は、物凄く高い時に絵画を買って、その画家の絵画が一文の値内も無くなったらそれでいいですし。もし、買った時より値段が上がったら、潰れそうな画廊に行って騙されたふりをして、安く売ったら言いですよ。」と言った。文化や道楽は、余ったお金を無駄に使う場所なのだ。お金持ちが、そういった文化や道楽を支えているたいして金回りの良くない連中の生活費を払ってやって欲しい。

宝石も旅行もローレックスもブランド品いいかも知れないが、絵画もっと素晴らしい。芸術だから、心を豊かにしてくれる。感性を磨いてくれ、違う世界を見せてくれる。人生の歓び、苦しみ、悲しみの質を高めてくれる。壁に飾った絵画との対話から多くを学ぶだろう、多くの慰め、歓びを得る事だろう。次の世紀に残していく素晴らしい芸術作品を黙々と制作している、才能のある画家たちがいる。彼らの生活を支え、彼らが新しい、想

 

像力に満ちた作品を、作り出すのに援助を与えて欲しい。皆さんが買ってくれる1枚の絵画が、又は100枚の絵画が未来のピカソを、シャガールを、ゴーギャンを生み出すのだ。皆さんが買われる作品が未来の巨匠の作品かも知れない。私は当社の画家が(全員ではなくとも)の方が、美術史の中に足跡を残して欲しいと思う。現に作品が美術館に収蔵されている作家もいる。

現在例えば10号で数百万円または、数千万円する作家の絵画を見て、しばしば私は当社の作家の方がいいと思う。でも、値段は10分の1とか100分の1だったりする。確かに数億する作家の作品は、時間と空間そして文化、人種、民族の壁を越えて素晴らしいと思う事が殆どだが、数千万円までの作家、特に日本の閉鎖的なマーケットに守られてあまり多くの人の眼に耐えていない作家よりは、やはり当社の作家の方が良いと思うことも多い。

 

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