17×17×3.8cm 革・フェイクファー・塩ビシート
透明な塩ビシートの中に封じ込められた拳銃。その表面には白黒のダルメシアン柄と鮮やかなオレンジのレオパード柄の革が貼り合わされ、一つの銃の中に異なる動物の皮膚を思わせる質感が共存している。背景には黒いフェイクファーと、手書きで繰り返し記された「MOJYU」の文字が配され、暴力性と装飾性が交錯する独特の世界を形成している。
拳銃は本来、人を傷つけるための道具であり、力や恐怖、支配を象徴する存在である。しかし井口エリーは、その表面を華やかなアニマル柄の革で覆い、透明なケースの中へ封じ込めることで、本来の機能を奪い、一種のファッション・オブジェへと変貌させている。危険な道具でありながら、同時に思わず手に取りたくなる美しさを備えたその姿は、現代社会において暴力さえもデザインや商品へと変換してしまう消費文化を映し出している。
タイトルの**「Mojyu(猛獣)」**は、拳銃を猛獣になぞらえた言葉であると同時に、人間の内側に潜む攻撃性や欲望を象徴している。白黒とオレンジという二種類のアニマル柄は、それぞれ異なる野生性を暗示しながら、一つの銃の中で融合することで、人間の中に共存する理性と本能、美しさと暴力性を象徴しているようでもある。
背景に幾重にも書き重ねられた「MOJYU」の文字は、まるで呪文や警告のように画面を満たし、作品全体に心理的な緊張感を与えている。一方、透明な塩ビシートは、その危険な存在を隔離するショーケースであると同時に、ブランド商品を展示するパッケージのようでもあり、「危険ですら消費され、美しく演出される時代」を静かに風刺している。
井口エリーは、《Mojyu》シリーズを通して、武器そのものではなく、人間が暴力や権力、美しさに抱く複雑な感情を可視化している。鑑賞者は、美しい革の質感に惹かれながらも、それが拳銃であることに気づいた瞬間、自らの価値観を問い直すことになる。本作は、美と暴力、欲望と倫理が交錯する現代社会への静かな寓話であり、「本当に猛獣なのは何か」という根源的な問いを私たちに投げかけている。