三枝浩子

動と静、その間に生まれる「侘び寂び」の美

三枝浩子は、東京を拠点に活動する現代アーティストです。

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1978年、山梨県甲府市生まれ。3歳の頃から絵を描き始め、幼少期から父親に裏千家茶道の手ほどきを受けながら育ちました。

この幼少期からの茶道との関わりは、現在の三枝浩子の芸術を理解するうえで重要な背景となっています。

茶道の世界には、華やかさや装飾性だけではなく、静けさ、余白、簡素さ、そして一瞬の中に宿る美があります。

三枝浩子は、こうした日本独自の美意識である「侘び寂び」を、現代アートの表現へと結びつけています。

「動」と「静」の融合

三枝浩子の絵画には、一見すると非常に強いエネルギーが感じられます。

身体を大きく動かしながらキャンバスに絵具を置いていくアクション・ペインティング。その制作過程には、身体の動きそのものが作品に刻み込まれています。

一方で、画面には大胆な余白が残されています。

この「激しい動き」と「静かな余白」という、一見相反する二つの要素が共存することによって、三枝浩子独自の絵画世界が生まれます。

彼女は、アメリカの現代美術におけるアクション・ペインティングと、ミニマルな空間の美学を意識したスパース・ペインティングの要素を組み合わせています。

ジャクソン・ポロックを思わせる身体的なアクションと、マーク・ロスコやアグネス・マーティンに通じる静謐な空間性。

その両極にある「動」と「静」を一つの画面の中で融合させることが、三枝浩子の絵画の大きな特徴です。

五感で描くということ

三枝浩子にとって、絵画は単に「目で見るもの」ではありません。

茶道の茶会では、視覚だけではなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という五感すべてを使って、その場の空気や時間を感じ取ります。

彼女はこの考え方を、絵画制作にも取り入れています。

色を選び、形を認識する。

筆や素手がキャンバスに触れる感覚を感じる。

絵具を混ぜる音や、筆が画面を走る音に耳を澄ます。

絵具やキャンバスの匂いを感じる。

そして、時には食べることのできる絵具を試すなど、味覚までも制作の意識に取り入れています。

つまり三枝浩子にとって制作とは、視覚的なイメージを作るだけの行為ではなく、身体全体を使って作品と向き合う行為なのです。

日本の美意識を現代アートへ

三枝浩子が目指しているのは、伝統的な「侘び寂び」をそのまま再現することではありません。

日本に古くから受け継がれてきた美意識や精神性を、現代の絵画表現によって新たに提示することです。

激しい色彩や身体的な動きの中に、あえて余白を残す。

エネルギーに満ちた画面の中に、静寂を生み出す。

その対比によって、鑑賞者は作品の前で一度立ち止まり、自分自身の内側にある静けさへと意識を向けることができます。

三枝浩子にとって「侘び寂び」は、単なる日本的な美的概念ではありません。

それは、現代社会の中で失われがちな静けさや心の余白を取り戻すための、一つの方法でもあります。

アートを通じて「癒し」を届ける

三枝浩子が作品制作において最も大切にしているのは、鑑賞者に「癒し」を届けることです。

強いエネルギーを持つ作品でありながら、その中には静かな余白が存在する。

その余白が、見る人の心に安らぎをもたらす。

それは、茶室に身を置いたときに感じる、日常とは異なる時間の流れにも似ています。

2024年にニューヨークのGallery 60 NYCで開催された個展「WABI SABI IN ACTION」では、キュレーターの佐藤恭子氏が、三枝浩子の作品について「激動のエネルギー」と「裏腹の静けさ=侘び寂び」が共存していると紹介しました。

そして、その作品を通して人々を癒し、心の平和と光ある未来へ導くことこそが、三枝浩子の目指すアートであると位置づけています。

海外へ広がる活動

三枝浩子は、日本国内だけでなく、海外でも積極的に作品を発表してきました。

2019年にはニューヨークのARTIFFACT Gallery、ソウルのG&J Galleryで個展を開催。

また、ニューヨーク、ウィーン、アテネ、ヴェネチア、マイアミ、韓国・光州など、さまざまな国際的な展覧会に参加しています。

主な参加展には、ニューヨークで開催された「Stepping Into A World」、ウィーンのシェーンブルン宮殿で開催された「ネオ・ジャポニズム」、第12回光州ビエンナーレ「想像の境界」、ヴェネチアでの「SURFACES」、マイアミでの「SPECTRUM」などがあります。

アーティストとして、デザイナーとして

三枝浩子は、絵画だけに活動を限定してきたアーティストではありません。

2000年に東洋美術学校視覚伝達デザイン科を首席で卒業し、2003年にはロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ美術学校グラフィックデザイン科に入学しました。

ロンドン滞在中の2007年には、音楽家でヨガのカリスマとして知られるマヤ・ファインズのコミッションにより、「PLANET MAYA」のステージ衣装とフライヤーを担当。

さらに2017年にはファッションブランド「HIROCO Japan」を創立しています。

こうしたデザイン、ファッション、音楽など異なるジャンルとの関わりも、現在の三枝浩子の自由で身体的な絵画表現につながっています。

三枝浩子の芸術

三枝浩子の作品には、激しいエネルギーと静かな余白があります。

動きがありながら静かであり、強さを持ちながら穏やかでもある。

その相反する感覚が一つの画面の中に共存していることが、彼女の作品の大きな魅力です。

日本の茶道文化の中で育まれた「侘び寂び」という美意識。

アメリカの現代美術から受けたアクション・ペインティングやミニマリズムの影響。

そして、身体全体を使って絵画と向き合う独自の制作方法。

それらが重なり合うことで、三枝浩子独自の現代絵画が生まれています。

作品の前に立ったとき、まず目に飛び込んでくるのは色彩や動きかもしれません。

しかし、その奥に残されている「余白」に目を向けると、そこには静けさがあります。

そして、その静けさの中に、自分自身の心と向き合う時間が生まれます。

三枝浩子が作品を通して届けようとしているのは、まさにその時間なのです。


三枝浩子 Hiroko Saigusa

1978年 山梨県甲府市生まれ
東京を拠点に活動するアーティスト・占術師

3歳より絵を描き始め、父親から裏千家茶道の手ほどきを受けて育つ。

2000年 東洋美術学校 視覚伝達デザイン科 首席卒業
2003年 ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズ美術学校 グラフィックデザイン科入学
2007年 ロンドンにて「PLANET MAYA」ステージ衣装・フライヤーデザインを担当
2017年 ファッションブランド「HIROCO Japan」創立
2020年 BSフジ「ブレイク前夜」出演

主な個展

2019年 ARTIFFACT Gallery/ニューヨーク
2019年 G&J Gallery/ソウル
2016年 Bar Foxy in Shibuya/東京

主なグループ展

2023年 「Stepping Into A World」Gallery Max/ニューヨーク
2019年 「ネオ・ジャポニズム」シェーンブルン宮殿/ウィーン
2019年 第44回ジャパンウィーク/アテネ
2019年 「創造者たち – 平成からその先にある時代の芸術家 –」金沢21世紀美術館
2018年 「SPECTRUM」Agora Gallery/マイアミ
2018年 第12回光州ビエンナーレ「想像の境界」/韓国・光州
2018年 「SURFACES」Palazzo Ca’ Zanardi/ヴェネチア
2018年 第24回現代美術日韓展/東京
2016–2018年 「現展」国立新美術館/東京
2017–2018年 日中韓芸術展/茨城県つくば美術館
2015年 「ARTRATES JAPAN」Hive Gallery/ロサンゼルス
1999年 「PARK OF THE FUTURE」オランダ・アムステルダム国際美術館
1999年 高美連展/山梨県立美術館

※上記経歴・展覧会歴は提供資料に基づいて掲載しています。

ニューヨークのキュレーター、佐藤恭子氏による評価

三枝浩子の作品を語るうえで、ニューヨークを拠点に活動するキュレーター、佐藤恭子氏の存在も重要です。

佐藤恭子氏は、日本文化と現代アートを国際的な視点から紹介するキュレーター、アートコンサルタント、エディターとしてニューヨークを拠点に活動しています。

朝日新聞社との協働による「メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神」の実現をはじめ、ニューヨークのアートスペースWhiteBoxではアジア部門を創設し、2018年から2021年までディレクターを務めました。

また、草間彌生、オノ・ヨーコ、久保田成子、千住博、村上隆、杉本博司、松山智一など、55名の日本人作家を紹介した歴史的な展覧会「A Colossal World: Japanese Artists and New York, 1950s–Present」のキュレーターを務めるなど、日本の現代美術をニューヨークのアートシーンに紹介してきた人物です。

2023年からは、安達元一氏とともに「Japan Contemporaries Series」を展開し、日本の現代アーティストをニューヨークの国際的なアートシーンへ紹介する活動にも力を注いでいます。

「WABI SABI IN ACTION」

2024年6月、ニューヨークのGallery 60 NYCで開催された三枝浩子の個展「WABI SABI IN ACTION」は、佐藤恭子氏のキュレーションによって実現しました。

この展覧会で佐藤氏は、三枝浩子の作品を、日本の茶道文化から育まれた「侘び寂び」と、アメリカ現代美術のアクション・ペインティングを結びつけるものとして捉えています。展覧会そのものが「WABI SABI IN ACTION(行動する侘び寂び)」と名付けられたことにも、三枝作品の本質が表れています。

佐藤氏によれば、三枝浩子の作品には、一見すると激しいエネルギーが存在しています。

しかし、その画面には同時に「余白」が残されており、そこに静けさが生まれる。

それは、幼少期から裏千家茶道の中で育った三枝浩子が体験してきた、茶室の静寂や、日常とは異なる時間の流れとも深く結びついています。

つまり三枝浩子の作品は、単なる抽象表現やアクション・ペインティングではありません。

日本の伝統的な美意識である「侘び寂び」と、西洋現代美術の身体的な表現を融合させることで、「動」と「静」という相反する要素を一つの画面に共存させています。

佐藤恭子氏は、この作品の中にある「激動のエネルギー」と「静けさ」を見いだし、そこに三枝浩子独自の表現の可能性を見出しました。

そして、三枝浩子が作品を通して目指しているのは、鑑賞者の心に安らぎをもたらし、癒しへと導くことです。

2024年のニューヨーク個展は、三枝浩子の作品が日本文化の背景を持ちながら、ニューヨークという国際的な現代アートの舞台においても独自の意味を持つことを示す重要な機会となりました。

現在も佐藤恭子氏はニューヨークを拠点に、日本のアーティストを国際的な舞台へ紹介する活動を続けています。三枝浩子との活動は、伝統的な日本の美意識を現代アートとして世界へ発信する、一つの象徴的な取り組みといえるでしょう。