井口エリー Iguchi Erie
コンテンポラリーアート彫刻家
プロフィール
1989年、愛知県生まれ。2015年、愛知県立芸術大学大学院修了。
身近なモチーフを大胆に変容させ、艶やかな塗装とユーモアを纏わせた彫刻作品を制作。ハイヒールや動物、拳銃・手榴弾といった対照的なモチーフの中に、女性性・欲望・暴力性といった相反する要素を潜ませ、見る者に鮮烈な違和感と親しみやすさを同時に抱かせる独自の作風を確立している。
受賞歴・主な活動
- 2014年 Tokyo Midnight Award 優秀賞・オーディエンス賞
- 2016年 LUMINE Meets ART AWARD 準グランプリ
- 2016年 個展「ジュウとハイヒール」開催
- 2020年 第15回 TAGBOAT AWARD 準グランプリ
作品について
ハイヒール・シリーズ
艶やかな塗装が施された靴の踵部分に、ミロのヴィーナスを思わせる人物像を融合させた彫刻。優美さと強さ、脆さと威厳が同居するフォルムは、女性の身体や美意識をめぐる象徴性を静かに問いかける。
ジュウ・シリーズ(拳銃・手榴弾)
拳銃や手榴弾をモチーフとした一連の作品は、単純な「平和への祈り」や反戦のメッセージには回収されない。むしろ、繰り返される戦争と暴力の増悪の連鎖そのものを、あえて艶やかに、装飾的に、時にキッチュに仕立て上げることで、見る者の視線をアイロニカルに裏切る。銃身を覆う毛並みや、手榴弾を彩るビジューやラインストーンは、暴力の道具を愛玩物へと転換させながら、同時にその転換自体が孕む欺瞞や危うさを露呈させる装置として機能している。
この手法の根底には、マン・レイやヘルムート・ニュートンの写真に通底する美学――エレガンスと暴力、優雅さと欲望が隣り合わせに存在する世界観――への意識が流れている。洗練された表面の下に本能や攻撃性を隠し持つイメージは、平和と戦争、美と破壊が決して対立項ではなく、常に互いを映し出す鏡像であることを示唆する。
動物シリーズ
猫や犬をはじめとする動物をモチーフにした彫刻群では、無防備にくつろぐ姿態にハイヒールやブーツといった人工物を組み合わせることで、「動物性」と「人間性」の境界を意図的に揺さぶる。だらしなく脚を投げ出した猫の足元に光る一足の靴は、単なる可愛らしさの記号ではなく、本能のままに在る生き物の姿に、社会性や欲望といった人間的な衣を纏わせる行為そのものだ。
そこには、井口が一貫して見つめ続けてきた「装う」という行為への眼差しがある。無垢に見えるものほど、実は最も本能的で、最も人間の欲望の投影を受けやすい――井口の動物彫刻は、そうした逆説をユーモラスな造形の中に静かに埋め込んでいる。この「愛らしさの裏側を疑う」姿勢こそが、彼女の作品全体を貫く精神性であり、優美なハイヒールから物騒なジュウ、そして無邪気な動物たちまで、一貫したまなざしのもとに結びつけている。
メディア出演
フジテレビ系列のインタビュー番組に出演。